フジファブリック アルバム「I Love You」の感想

新しい曲を聴いて最初に感じた事というのはライブでたくさん聴いてから思う事とは変わってきたりして時間が経つと的外れになったりするけど、それもまたその時の自分にとっての真実、という気もするのでそれを書き記す。


01. LOVE YOU (Music : 山内総一郎

「LOVE YOU」というタイトルから一番初めに出たI Love Youのティザーで流れたような音楽(のちに赤い果実の前奏と知る)のようなしっとり系とかアコースティック系を想像してたので、秘密のFab Room(アルバム発売前に収録曲を初めて披露する場となったオンラインライブ)で初めて聴いた時はその予想外の勢いのある楽曲に度肝抜かれた。

合いの手のような掛け声のような声が入ってるのも楽しい。演奏しててめちゃめちゃ楽しかっただろうなぁというのが音源から伝わってくる。アルバムLIFE収録シャリー以来通算二度目となる山内くんの笑い声収録曲ですが、山内くんの笑い声っていうのはつい入れたくなる最高の”音声”なのかしら。(わかる)

ライブでフジファブリックがこの音源通りのまま演るわけがなく… 歌詞という決まり事がない分余白ありあり。またツアーが出来るようになって、ツアーで育っていくのを観れるようなそんな状況になることを望んでいます。

フジファブリックのインストって曲と曲を繋ぐような短いものはあったけど(アルバムLIFE収録曲のF.T.79とか。しかもあれはefil の派生みたいなものだったし)こういう曲としてバーンと1曲!みたいなインストは今回が初めてで。そういうものを出せるという今の自信でもあるのかなと思うし、元々フジファブリックは演奏だけでもめちゃめちゃおもしろく、歌詞が乗る作品とはまた違う楽しみ方になるというか、これまでもあった「歌あり」と「バッキングトラック」で別の2曲として楽しめるようなところがあって、「歌詞がある」、言葉というものは強烈なもので、普段歌詞がある事によってかなりの割合で意識そっちいっちゃってるんだなというのをバッキングトラックを聴くと改めて感じる。意識の差で今まで聴こえてなかった音が聴こえてくる。

曲の間の箸休めみたいな存在でなく、ひとつの楽曲としてインストはおもしろい。これからもたくさんインスト作品も作っていってほしいな。


02. SHINY DAYS (Words & Music : 山内総一郎

LOVE YOUからSHINY DAYSへの流れがとても好き。朝に聴くとテンションがあがる、キラキラの音。

個人的な趣味でいうとたぶんこういうテイストの楽曲、パーティチューン?とか、自分は得意じゃないと思うのです。でもそういう個人的な趣味とか好みとか全部ぶっ飛ばしてこの曲がめっちゃ好きなのです。理由が本当にわからないのです。理屈じゃないのです。めちゃくちゃ聴いてます。曲の構成が凝っててとても楽しい。

山内くんのボーカルは特に近年曲ごとの声の歌い分けを感じるんだけど、こんなはしゃいだ声出せるんだ!って驚き。跳ねるようなリズム感も気持ちいい。

そして、歌詞が非常に好きです。ほんとにフジファブリックは三人ともに言えるけど歌詞がどんどん洗練されていってる気がする。それも「詩集に載って鑑賞する」タイプではなくて、歌詞カード読んでても楽しいんだけど、音楽に乗った時にバチンと音にはまって言葉が弾ける「詩」じゃなくて「歌詞」。

SHINY DAYSは言葉のリズムと音楽への乗り方が非常~~にいい。

頭サビのあとに始まるAメロが夏の大三角関係(BOYS収録)=人力Perfume を彷彿とさせる。

・「TINY TINY BOY」のちょっと古めかしい語感がくすぐられる
・「ふき掃除 掃き掃除するよ」がサビにのるおもしろさ
・「準備じゃない?至福を招く」→ワンマンは至福の時!
・「探せてないもの ぼくらじゃない?見つけられるの」の自信に震える……。

そこから今回のアルバムの大きな動き、メンバー初ボーカルのゾーンへ…

そういう予兆も今までちょくちょくあったし、とうとう音源にメンバーのボーカルが入ったね。でもそういう突破口になる曲を作るのは、山内くんだろうなと。

個人的には(今でも)フジファブリックの総ボーカル化は望んでいない。ユニコーン化は望んでない。志村正彦というボーカリストがいて、山内総一郎というボーカリストがいる、それがフジファブリックだと思ってる。今後まるまる一曲企画的なものではなく(生誕祭の恋するパスタは音源ではないし企画物なのでああいうのは単純に楽しい)アルバム楽曲の一曲としてメンバーがボーカルをとる曲が生まれるとしたらちょっと自分は抵抗があるな。という土台がある上で。

今回メンバーのボーカルが入ったのは全然違和感ない。楽曲のコンセプトにとても合ってる。メインボーカルではなくアクセント的に歌ってるというのが大きいけど。自分的には他のコラボアーティストと同じような感じで「メンバーのボーカルと今回初コラボ」ってイメージ。

二人ともそのまんまというか、フジファブリックが歌で会話してるみたい。金澤君の歌声はライブで何度も聴いてきたけど、加藤さんの声がこの曲の中ではすごくしっくりくる。落ち着く声。ライブの時は二人ともいきなり歌うから大変そうだなと思った。(特に金澤君の歌うパートは声張るから難しそう。)歌詞もそれぞれ二人に合ってるなーと思う。

「テーブルの染みのように これからもよろしくです」っていいよなー、その染みも私たちのこれまでの歴史として、愛着持って、これからもずっと一緒に生きていきましょうねっていう。

これからも よろしくです★
(★は付いてない)

この曲調で持ってけドロボー!とか歌う人、他にいないよ…。褒めてる…。

・「目覚ましいね」ってなんか好き 最初の目覚ましでともかかって
・「見つめてたい そうされたいから」語感もいいし言葉の意味も非常にグッとくる

「心踊る場所を作る」の「作るぅぅ」とか、わざとメロディにかっちりはまる言葉を当てはめてないところがいいー。転調もいいー。

「いつか遠い所へ行ったら 旅先で手紙を送る」は「またツアーが出来るようになったら地方からツイートするね」って感じ。いつもあった愛おしい風景、また戻れるといいね。

またライブが出来るその日まで準備整えて待ってる!って感じのピカピカした歌詞が好きだー!

最後のッチャッチャッチャッチャ、ッチャッチャッチャッチャの繰り返し、仕上がってる。


03. 赤い果実 feat. JUJU (Words & Music : 山内総一郎

ずっとダンサンブルっていうキーワードを発してたのでバタアシParty Nightみたいな曲調を想像してたらグッと落ち着いた曲調だった。

最初山内くんの声がこの曲の雰囲気にしては朴訥としてるなーと思ったけど、聴いていくうちになんか……すごいな、醸し出される人間の深みとか重ねてきた経験とか、割と特にAメロBメロは棒気味に歌っているのになお感じる色気、この声帯 何………てなる。

JUJUさんの使い方、ガッツリ歌い合う感じじゃなくて「絶妙な配合の旨いブレンド」って感じなのがおもしろい。JUJUさんの声入ったのは大正解だと思うー。しっとりというよりイチゴフレイバートッピングみたいにポップで軽やか。サビではチラチラする"気配""匂い"みたいな存在感。

「どうしようもなくただ」のリズムの乗り方が好き。英語みたいな乗り方。

「また巻き戻して」の「また」の「た」の発声。

しあわせが「仕合せ」なのに意味を感じる

歌詞の漢字とひらがなを使うところのバランスが絶妙だー。

いろんな話からして山内くんの言ってた「今までの人生で一番エロいギターソロ」はこれで確定だと思うけど、間奏のトゥトゥトゥッてスキャットと絡み合うようなギターがたまりませんなー。このギターソロ、生で聴いたら酔うのでは?

Pa Pa Pa Pa Pa Pa パァ~⤵︎ の声色がやさしかわげあっていい。

この曲を初めてオンラインライブで披露した時はフジファブリックだけで演奏された。AメロのJUJUさんパートはもちろん山内くん一人で歌って、サビのコーラスでJUJUさんの声を流してたんだけど、ライブでいない人の声が聴こえるのは違和感があり、サビのコーラスは金澤くんのコーラスでいいのではないかなーと思った。(レコ発っぽいライブであったので今回は原曲に忠実にしたのかなとも思うけど)

ライブだとどこかのタイミングでJUJUさんが来て歌うこともあるかもだけどそんな機会もそうそうないと思うのでフジファブリックだけでやる事になると思うんだけど、男一人で歌う赤い果実というまた別の世界を作り上げていってほしいという思いがある。


04. たりないすくない feat.幾田りら(Words & Music : 加藤慎一

赤い果実~たりないすくないのこの流れも好き!女性ボーカルコラボ曲二曲並べてそのすべて違う雰囲気を堪能してください!って感じ。特に山内ボーカルのニュアンスの違いよ…。

前奏が始まってその軽やかな音に耳が喜ぶ。
幾田りらさんの声がすっと入ってきて耳が嬉しい。

これも先にティザーでイメージが流れてMVのプレミア公開で曲の全貌を知った、赤い果実を同じパターン。ティザーで一部分(前奏)だけ聴いた時はほんのりオリエンタルな雰囲気を感じたりした。全体で聴くとまた少しイメージが変わった。

音が作り出す世界観とサビで跳ねたり軽やかに二人でヒュルヒュル高いところ行ったりする声と歌詞が最高にかわいい。

幾田りらさんの透明感と一緒に山内くんの歌の透明感もばれてしまえばいいのに。

MVをプレミア公開で観たあとはアルバムを通しで聴く時の新鮮さを保つため、あんまり聞き込まないようにしてた。曲を聴く前に歌詞カードに目を通すひとときはとても楽しみにしている時間。

たりないすくないの歌詞はほんとにすごい、加藤さん史上一番かわいい歌詞。加藤さんの歌詞と言えば言葉遊びだけど、あんまりそこを意識しなくても、言葉の置き方と組み合わせで十分加藤節になるというか。今回の研ぎ澄まされたシンプルな歌詞の言葉選びが本当に素晴らしいと思った。加藤さんの作詞の中で一番好き。フジファブリックの中でもかなり好き。

「この世の中終わりってあるかな?」って冷やっとする感触の一言目にすべて持っていかれる。

二人の歌声が最高にいいところで「あなたへの愛を怠ったりなんてしない」というキラーワードを当てはめた時点で加藤さんの勝ち。

まず「愛を”怠る”」っていうのがすごいし、「あなたへの愛を怠ったりしない」じゃなくて「あなたへの愛を怠ったり”なんて”しない」ですよ・・・

たりないすくないのMVが非常にかわいい。出演してる祷キララさんが花火見てニヤニヤしてるのとエ・ゴ・イ・ズムの歌詞に合わせてリップシンクしてるシーンが好き。MVは自分のイメージドンピシャ(破顔のような)か、もしくは楽曲の世界を邪魔せず限定せず余地を残してイメージを広げてくれるようなMVが好き。夜景とか夜明けとかそういうのが好きなので、たりないすくないのMVの夜の街とか東京タワーとかキラキラしたかわいい世界がとても好みだった。

んで、そのMVのイメージに引っ張られて、キラキラしてる時期の離れがたいドライブソングみたいな感覚だったんだけど(それも成立するんだけど)、「だらしない影 揺れる照明 偽りではない僕の証明」ってこの一文あるだけであからさまでなくこの曲がそういう曲だとグッと形付けるのすごいわ。そこから浅き夢みし~も宵の切れ端~も泡沫の夜も全部繋がっていくというか。表現が美しすぎる…。

「燃ゆる」ってかわいいよなぁ

こんな透明感あってかわいい「エゴイズム」ある?

「知ってた?本当の私はちょっとだけずるいよ」のところの歌い方、ほんと天才だと思う…。その歌詞を解釈して声として出す時のその表現力がすごい。(アルバム発売記念YouTubeLIVEでフジファブリックと一緒に歌ったブルーも素晴らしかった)

幾田りらさんはもちろんYOASOBIの曲で聴いてたけど、それまでは聴き馴染みの良い声だなーぐらいだったけど紅白で生で歌ってるのを観てその上手さに驚いた。機械みたいに正確なんだけど感情を揺さぶられる、勢いのある不思議な声で、その紅白の図書館の演出もとても素敵で、見る目変わったのその辺からなんだけど、なので今回コラボアーティスト第二弾で発表されてとても嬉しかった。このタイミングで幾田りらさんを呼んでこれるのもすごい事だと思った。

何曲かある中で幾田りらさんが曲を選んだ、という事だったけど、自分を生かす、そして新しい自分を引き出す、その曲選びの嗅覚もすごいなと思った。だってこの曲幾田りらさんにぴったりなんだもの。もう他の誰の声も想像させないくらい。

今回のコラボでまたYOASOBIや幾田りらさんの歌を聴く機会が増えて、同じ年代の人たちのイメージよりもとても芯が通っていて(詳しくないけど下積みも長そう)良い意味で野望もあって、一過性のものでなく息が長く活躍するボーカリストになっていくんだろうなと思うような人だった。幾田りらさんがこの先歳を重ねてどんな歌を歌うようになるのかも楽しみ。そしてそんな幾田りらさんの変わっていく「今」をこの瞬間に楽曲として切り取れたのは素敵だな。

たりないすくないは曲の性質として一人で歌うのを想像するのがとても難しいなー。サビの高いところで声がもつれあうところはコーラスでは出せないようなニュアンスだし、完全に一人で歌う曲として組み替えないと難しい気がする。やってみてほしいけど。

「知ってた?本当の私はちょっとだけずるいよ」って山内くんに歌ってみてほしい…。そこを山内くんが歌うなら本人としてじゃなくて話していた言葉を思い出す、回想みたいな感じだね。


05. 楽園(Words & Music : 金澤ダイスケ

アルバムの中でこの曲が入っている事ですごく締まるしバランスが良い。間違いなくI Love Youというアルバムの完成までの勢いを作った曲であります。

Dr.STONEのティザーで初めて聴いた時本当にびっくりした。やっぱり変化していこうとする人 好きだ。

前奏、ベース、未開の"楽園"の色気、2番への入り方、間奏の入りの鍵盤、間奏の暴れ鍵盤、最後の終わり際のギターの音

サビに行く時のデデッデデッデデッデデッっていうの、初めてアニメで聴いて時はとてもアニメっぽいインパクトだなと思ったけど曲の中でまるで違和感ない。というか曲の中で違和感のある部分がない。歌詞もメロディも、凝ってるけどしなやかで強い一本の流れにするする導かれるような感じだった。

完璧な、ど真ん中を行く曲だと思う。

金澤君の作るハードな曲は、これからフジファブリックにとってものすごい武器になるかもしれない。

想像通りというかこの曲はライブでとても映えてかっこいい。「からまって 紐解いて 飛び越えて 歪んだ世界/終わって はじまって 這い上がって 願った時代」のところ、ライブで最初金澤・加藤で歌ってて二回目を繰り返す時に山内くんのボーカルが覆いかぶさるように入ってくるところめちゃくちゃ好き。


06. Dear(Words & Music : 金澤ダイスケ

アルバムの中で吹き抜ける風みたいな曲。金澤君は楽園作ったあたりから覚醒してきてる気がする。

Dearは一番近い存在の自分を愛そうという曲で決してネガティブな曲ではないので話は少しずれるけど、最近金澤君がダークだったり暗めの曲を作る事に関して。

フジファブリックは(特に山内くんは)「暗い気持ちやネガティブなものを音楽で共有したくない」みたいなのがある気がするんだけど(はたから見た自分の印象です)、それもわかるんだけど、それはまた音楽の幅を狭めてしまうというか、暗い気持ちもネガティブもまた人間の持つ感情なわけで、変な話だけどただ誰かが吐き出した暗い気持ちやネガティブな気持ちにほっとしたり安心したり愛おしさを感じる瞬間もあるのです。別の一曲の中に答えなんて見つからなくてもいいと思ってる。ネガティブを共有しよう!っていうんじゃなくて、ミュージシャンに苦しみを全部見せろと言いたいわけでもなくて、でもそのまんま見せてくれたらいいなと思う。やっと最近、見せても大丈夫だと信頼してくれるようになったのかな。その先陣を切るのが金澤君だとは思わなかった。

オンラインライブで初めて聴いた時はDearってタイトルで想像してたハートウォーミングな曲調と全然違ってビックリした!イギリスの音楽っぽい空気を感じる。クールで美しい演奏。間奏と後奏の鍵盤はフジファブリックっぽいなー。

「ビリー……、誰……。」ってその部分が強烈に耳に飛び込んできたけど、そのあとアルバム初回盤に付いてたレコーディングドキュメンタリー観たらそれも金澤君にとってしてやったりだったのかなと。

「くすぶって化石になるの 地球に繋がれたまま」って歌詞好き

影があってクリーンなボーカル。山内くんはほんとにいろんな声が出せるようになったし表現に更に深みが出てきたなー。今、当時歌い切れてないと感じたthe lightとか歌ってほしいな。また違う表現が出来るかもしれない。


07. あなたの知らない僕がいる feat.秦 基博(Words & Music : 山内総一郎

最後に発表された三人目のコラボアーティスト、秦基博。前に発表された二人、JUJUさん、幾田りらさんはまったく想像してなかったけど、秦君は自分の想像の片隅にいた人。嬉しかった。

アルバム発売から本当に何回も聴いて、何度聴いても鳥肌が立つし、涙腺が緩む曲。アルバムの中で一番聴いてる。

「あなたの知らない僕がいる」を配信ライブで一人で歌っているのを初めて聴いて、本当に涙がこぼれるぐらい素敵な曲で、山内くんの歌がすごくて、どの部分を秦君は歌うんだ…?正直、フジファブリックだけの曲にしてしまいたい、と思った。でも秦君と歌うという思いがあったからこそこんな強く広く伝えようとする曲になったんだろうと思う。

アルバムが発売になって、その日の夜行われるI Love Youアルバム発売記念YouTube Liveを観る前に、「あなたの知らない僕がいる」MVのプレミア公開の前に、「あなたの知らない僕がいる」をアルバムで音だけで聴いておきたくて。2日前の配信ライブがアルバム初聴きみたいなもんだったから、まだ秦君のボーカルが入った歌い分けを知らず全貌を知らないのはこの曲だけで、唯一アルバムで初めて体験出来る曲だったから。

聴き始めて、歌い出しからの山内くんのザラっとした声の感触がすごくて圧倒されてしまった。このアルバムでこれまで聴いてきたどの曲とも違う。人間味溢れる等身大の歌。少し疲れた大人の男性がそこにいて。

「あなたの知らない僕がいる」ってタイトルも珍しいけど、歌い出しの歌詞も珍しい感じだった。ライターが出てきたのは実話だとインタビューで言ってたけど、タバコは…やめてはいないかな。

「ここには自分を騙す~」のメロディがどうしようもなく好き。

そして配信ライブで山内くんが一人で歌った時感じた事を改めて思った。この歌いっぷりといい、歌詞の内容といい、やっぱりこれ一人で歌う歌だ、と。

そして一番を全部山内くんが歌いきって、いつ来るかと思ってた秦君の声が二番に入ってやっと来た時、とても山内くんと似ていて驚いた。歌い出しの「新しい」の「あたら」と「何度も」の「なん」が山内くんの声に激似。インタビューで山内くんが「秦君が曲に声を合わせてくれて」というような事を言ってたけどこのあたりにそれを感じる。「震わせた心を取り戻せない」の高くなっていくところで秦基博歌唱に開放されていく感じがするね。

秦君はそこを短く歌ってすぐ長い間奏に入って、山内くんの歌になって、こういう展開の曲なんだな、秦君の声はとても良い、けどこの曲が秦君である意味はあんまりないかもしれない・・・と思ったところで訪れた、畳み掛ける二人の声の応酬、

すごい勢いで柔らかい大きな流れに飲み込まれるみたいで、全部開けていく感じがした。ああ、秦君がいるのはこの瞬間の為のものだった、と思った。

こんな感触の、男性二人で歌われる歌は初めてだった。主をいってハモってユニゾン、溶け合ってめちゃくちゃ綺麗だ。

これまでのコラボと違ってこの歌は誰かと掛け合う歌ではなくて一人の人間の歌で。二人の人間が立っているというより、一人の人間を支えて後押ししてくれて一緒に進んでくれる魂みたいな存在感で、山内くんと一体となっているようなそんな感覚。

「冷えるねって手をつないで」
「ふたり身体押し込んでは」
「髪を嗅ぐのはやめてと笑ってた」
「時計は止まらなかった」
「正午を過ぎたら離れ離れ」
「振り返らずに行った」

この部分の歌い分けが的確というか…
どっちも、その人が歌う事で泣けてしまう。
交互に歌われる事で、走馬灯みたいなんだよ。

前半のあたたかい想い出から、秦君の歌う「時計は止まらなかった」がとても哀しい。

最後のサビが山内くんが誰にも言わず越えてきた人生なんだなと思う。山内くんが自分の苦しい部分をこれだけ歌にしてくれた事あったかな……

「手紙」という曲が山内くんの夢や持っていった思い出を乗せたものだとしたら、「あなたの知らない僕がいる」は手紙と同じ長さの人生の裏側で、切り捨てたり忘れたりしてきたものの歌という感じがする。それすらも山内くんは肯定してあげたいと。

「作り笑いをしながら 誰も傷つけずいたら 何かが邪魔して涙も出ないよ」を秦君が歌う事で保たれるけど、山内くんが歌ったらすごく重いだろうな。でも、歌ってほしい。フジファブリックのライブでこれからも、たくさん。

ダイナミックだけど大袈裟ではなく、心に寄り添って包み込むようなトオミヨウさんのストリングスアレンジが素敵だった。

山内くんが歌詞を書きを終えて息切れしたと言ってたのがグッときた。
大名曲。


08. 手(Words & Music : 山内総一郎

「手」はすごーく山内くんの個人的な歌詞だね。手紙が更に個に向かったような。見送る~あたりの話は山内くんじゃないと書けないんじゃないかと思う。ご両親が聴いたら泣くんじゃないかな。両親じゃないけど泣いてしまった。

オンラインライブでユーミンみたいな風を感じたんだけど(あと、家族を想う時山内くんはPRAYERみたいな音が鳴るのかなとも思った)、のちにOKmusicのインタビューで「棚から奪ったレコード」(奪ったって表現もめっちゃかわいい)がユーミンひこうき雲だという話を聞いてうおー、となった。確かにひこうき雲と歌詞には出ているが…。音楽からそれを醸し出すのすごくないですか。あと、この曲からは山内くんのお母さんが掃除しながらアルバムをループで聴いてたと昔インタビューで言ってた竹内まりやの風も感じてます。勝手に。


09. 光あれ(Words & Music : 山内総一郎

この曲を最初にラジオで聴いた時は項垂れたしどうしようと思ったけど今こうして好きになれて良かったなと。こういう時期だったので、このアレンジでライブでバンバン聴くよりアコースティックでたくさん聴いて和らいでいったっていうのが大きいかな。両国国技館で歌った光あれの弾き語りは本当に素晴らしかった。

ほんとにあのアレンジが苦手だったのです。でも山内くんが望んでああいう90年代とかそのへんに寄せたかったようなので、単に自分の好みの問題だと思われます。正直あのまま小林武史氏と二作目、三作目と続いていったらどうなってたかよくわからない。同じ事をしないのがフジファブリックなのでそれはないと思ってたけど。フジファブリックのファンの人は応援してくれているという側面が強いという事を最近のインタビューでよく話しているけど、もちろん人柄は好きだし応援している、けど結局音楽でしか繋がれないしそれがミュージシャンに対する一番誠実な態度だと今でも思ってる…けど、それもどうだか分からないんです(突然のバウムクーヘン)でも今フジファブリックの作る音楽が最高だと思ってるし応援してる、それでいいと思ってます。

ありえないけど光あれをアルバムver.とかいってアコースティックでやったアレンジで入れてくれたらアルバムのカラーとしてすごく好きな感じになるなーと思った。

LOVE  YOU〜SHYNY DAYSの明るく勢いあるキラキラした雰囲気で始まり、赤い果実〜たりないすくないのムードがあってかわいいロマンチックなゾーンを抜けて、楽園からハードモードに突入してDear、あなたの知らない僕がいる、そして手〜光あれの穏やかなやさしい気持ちで終わるという素晴らしい流れのアルバムであります。

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まずこの状況下でI Love Youという傑作を作ったのが本当にすごい。

テンションも上がらないし何もやる気持ちが湧かないみたいな時期、創作してる人にはないのかな(家にこもって作業に集中出来てあまり関係ないのかな)と思ったけど同じように苦しんだ時期があったとのちにインタビューなどで知って、でもそこにとどまってないで何かで自分を奮い立たせて自分を更新して、人の心を震わせるような作品を作った、それはやっぱり普通の人でなく特別な人だなと思うし、だからこうして人前に出るような仕事をすることになるんだなと思う。

またその作戦について 光あれののち楽園というDr.STONEという人気アニメのオープニングソングのそのダークな世界観に驚かされ、何も言わずティザーのイメージ映像をツイッターに流したのちJUJUさんとのコラボ発表、そしてあと2組のコラボ発表、毎週毎週、アルバム発売週まで本当に驚きの連続で楽しかった。アルバム発売というイベントをいつものようにレコ発イベントなど出来ない分、違う方法でずっと楽しませてくれてテンション高くアルバム発売日を迎えられた。

本来はI FAB Uツアーの熱狂の中で刺激を与えられて曲を制作しアルバム発表となったはずがそれが出来なくなった分、違う形で刺激を受ける方法を模索した中でコラボという方法があったのかなと思った。

嬉しかったのは、あれだけの強い三人のボーカリストを迎えて、その魅力を存分に引き出しながら、自分が脇役にまわるのではなく怯まず自分の歌を中心に据えてくれた事。だから三組もコラボ曲が入ってるのにコラボアルバムという企画物的な雰囲気はなく、フジファブリックのアルバムって思える。

単発や企画物ではなく「フジファブリックのアルバムとして」入ってずっと残る声なので自分の苦手な人が来たらキツいだろうなーとは思う。コラボ相手のあらゆる可能性を想像してて(あの人来たら辛いかも)という人はいたし。最終的に曲として好きになるとしても。今回3人とも嬉しい人ばかりだった。そしてその作品も素晴らしいものだった。

ギュッと内容の詰まった9曲。曲数を最初に聞いた時は少ないなー、13曲ぐらい聴きたい、と思ったけどこうしてみると、何か違うものが入ってこの純度が壊れるならこの9曲でいいと思った。ものすごく丁寧に作り上げられた9つの世界観。あの曲を聴いたらこの曲、って全部聴き込みたくなる。飛ばしたり、あまり聴かない曲というのがない。で、こんなに密度の濃い9曲なのに全部聴き終えても圧でしんどくならない。その抜き方、さじ加減も考え尽くされていて最高。

すごいなと思ったのは最近の三人が「メインで作る人がいるから自分はその人のやらないところを」じゃなくて、この役割ならこの人、この曲調ならこの人、みたいに分けておらず、どの曲が得意とか枠を越えてガンガンメインストリームに入るような曲を作ってくる事。だから例えばアニメの主題歌の話が来たら誰が作詞作曲を担当しても不思議じゃない状況になってるし。バラードだって作る、暗い曲だって作る、パンチのある曲だって作る。

I Love Youの中で全員が確実に曲も歌詞も研ぎ澄まされてきてるし自分を更新してきたのが本当にすごい。

そして、I Love Youというアルバムは特に今までにない「色気」を感じるけど、その色気の種類がこんなにもありますか……、どれだけ出してきますか……。っていう。それが「こんな大胆な事歌ったったぜ」みたいなしょーもないものではなく、とても品があって、そこはかとない色気。フジファブリックの表現する「大人」がこんなカッコよくて瑞々しくて艶があって楽しくて、こんなに楽しいなら大人になるのも悪くないなって思える。

山内くんのボーカルもこれまでと違うなーと思うし更に表現力が増したと思う。川口大輔さんがボーカルプロダクションが今回「赤い果実」と「あなたの知らない僕がいる」で入ってるけどそれも効いてるんだろうか。山内くんの声とか歌の表現ってとても柔軟で繊細で、言葉や人との出会いや取り巻く状況とか、いろんなきっかけでこれからもどんどん変わっていく気がする。

ただただ年数を重ねれば歌が上手くなるわけでも表現力が増すわけでもなく、そこには山内くんの見せない不断の努力があるわけで。山内くんのすごさは、情報収集して人に聞いて(という片鱗がよくうかがえる)なんでも自分の体を使って試すところと忍耐強くどんなに時間がかかっても待てる事。

今の山内くんの声があるのは、ショートカットするような早く手軽に身に付けられるテクニックで誤魔化すのではなく、自分の持ってる素材をただただ磨き続けてきたからだと思う。それは山内くんのギター道にも通じるんだけど。基礎をひたすら反復するような。そして常に新しい方法を模索して取り入れるような。

最近ラジオで聴いたストローを使ってボイストレーニングしてる話とかも。何かを得ようとしたらなりふり構わず猪突猛進みたいなところ、ほんと尊敬してます。

素直でまっすぐな、とか透明な、という意味を捻じ曲げず受け取ってきたから今の声がある。意外といないんだよ、まっすぐに歌ってる人、まっすぐに「歌える」人、それで説得力がある人って。きっと普通の人はまっすぐという言葉をネガティブに捉えたり、怖くて逃げたりするの。

山内くんの人間性が全部声に乗っかったような、山内くんの歌声が好きだ。

今後、コラボ曲をカンヌの休日などと同じように自分達の曲として育てていく事になると思うけど、アルバム聴いてから配信ライブを見直すと、不思議なもので、自分のパートじゃないところはまだ馴染まない感じがした。「赤い果実」の二番の最初とか、やっぱり一緒に歌ってくれた誰かの存在を感じる。「あなたの知らない僕がいる」は一人で成立してたけど、そのあとであの秦君との掛け合い部分を聴いたら、あの部分はまったく違うものになるね。ならざるを得ないんだけど、それでも山内くんならばそのコラボしてくれた人たちの思いも全部取り込んで、またすごい歌を歌ってくれると思う。楽しみにしてる。